父の会話が少しずつ怪しくなってきた頃、
「認知症かも…」と決めつけるのではなく、
まずは“もの忘れ検診”を受けてみようと思いました。
さいたま市では、65歳以上を対象に「もの忘れ検診」を行っている病院があります。
私は、父が通いやすそうな場所から、病院をひとつずつ調べていきました。
電話をかけて、受付の方と話して、
「もの忘れ検診をしていますか?」と尋ねながら、
その病院の“雰囲気”を感じ取っていきました。
そして、話した感じが一番良かった病院に、予約を取りました。
初めてその病院に行ったとき、
私はびっくりしました。
看護師さんたちが、話を本当に、よく聴いてくださったのです。
父の数年前からの手術や通院履歴を、
根気よく、丁寧に、時間をかけて聴いてくださって──
その合間に「大変だったね」「そうだったのね」と、
しっかり目を合わせて、言葉を添えてくれました。
そのやりとりを見ていて、
私は胸がじんわりとあたたかくなりました。
父も、安心したように、ゆっくり話していました。
「もの忘れ検診」もしてもらって、
看護師さんがふと笑いながら言ったのです。
「お耳もよく聞こえるのね」
すると父は、すかさずこう返しました。
「いえ、右の耳は全く聞こえないんですよ!」
その言い方がまた、妙にハキハキしていて──
私は思わず、くすっと笑ってしまいました。
看護師さんも笑って、
「じゃあ、左のお耳が頑張ってるのね」と返してくれて、
その場がふんわりとあたたかくなりました。
病院という場所で、
こんなふうに笑える時間があるなんて──
それだけで、父の表情も少し明るくなった気がしました。


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